「枝を切る」それだけでは剪定とは言えません。
剪定には、“木にとって必要なこと”と“人が見た目を整えること”の両方があります。
このページでは、剪定の基本である3つの方法を、造園の現場で実際に考えている視点からお伝えします。
強剪定(きょうせんてい)
木の形を大きく変える「決断の剪定」
✅ 特徴と目的
- 大きくなりすぎた木を小さくしたいときや、老木の更新、伸びすぎた枝をリセットしたいときに行う
- 時期を誤ると木への負担が大きく、樹勢が弱る原因にも
🌳 現場での考え方
- 「この枝を切る=この先5年の樹形に関わる」と考えて判断
- 強剪定の判断は、「木の我慢強さ」と「再生力」が鍵
- 冬(12月〜2月)によく行うが、樹種によっては春の芽吹き直前がベストなことも
❗注意点
- 松・ゴールドクレストなど針葉樹は強剪定に不向き
- 花木は花芽を落とす危険があるため、時期と枝の見極めが重要
🌿 強剪定のあとは「癒合剤(ゆごうざい)」でケアを
強剪定では、どうしても太い枝を切る場面が増えます。
そのままにしておくと、切り口から雨水や病原菌が侵入し、腐れや枯れこみの原因になることもあります。
そんなときに役立つのが「癒合剤」です。
癒合剤とは、剪定後の切り口に塗って、樹皮の保護と傷の治癒を促す塗布剤です。
木が持つ自然の治癒力をサポートし、切り口がスムーズにふさがるよう助けてくれます。
癒合剤を使うときは、水気や木くずを拭いてから塗るのがポイント!
塗りすぎると逆に蒸れてしまうことがあるので、うすく・均一にが基本です。
✅ 実際の現場ではこんな使い方をします
- 直径3cm以上の切り口には基本的に癒合剤を塗布
- 風通しが悪くカビが出やすい場所や梅雨前・秋口など湿気の多い時期は、特に念入りに
- 果樹やカシ・モチなど病害に弱い木にも積極的に使用
🧴 現場でよく使うおすすめ癒合剤
商品名 | 特徴 |
---|---|
🌳 トップジンMペースト(住友化学園芸) | 殺菌成分入り。病害予防効果が高く、広く使われている癒合剤 |
🌿 カルスメイト(大興製紙) | 切り口を保護する皮膜形成タイプ。自然治癒を助ける |
🌱 癒合剤サルファー(ハイポネックス) | 銅剤+保護剤で果樹にも◎。固まりやすく扱いやすい |
いずれもホームセンターや園芸店で入手できますが、木の種類や環境により適切なものを選ぶのが大切です。
軽剪定(けいせんてい)
形を整える「整枝の剪定」
✅ 特徴と目的
- 樹形を大きく変えず、飛び出た枝・混み合った枝を整える作業
- 剪定バサミ・刈込バサミなどで手早く行える
🌿 現場での判断基準
- 見た目だけでなく「風通し」と「光の入り方」を意識
- 夏の暑さ・冬の寒さの前には“枝葉の量”を調整する目的でも行う
🛠 適したタイミング
- 年2回:初夏(5月〜6月)、秋(9月〜10月)が目安
- 真夏・真冬は避ける(木にストレスがかかる)
透かし剪定(すかしせんてい)
枝の重なりを減らす「呼吸を助ける剪定」
✅ 特徴と目的
- 木の内部まで光と風を通すための剪定
- 見た目はあまり変えず、木の健康を保つために重要
🌬 現場での感覚
- 「枝を見て切る」のではなく「切ったあとを想像して」透かす
- クロガネモチ・モミジ・カシ類など、葉が密になりやすい木に有効
- 病害虫の予防・風通しの確保・落ち葉軽減にもつながる
📍 ひとことアドバイス
🎥 透かし剪定の実演動画はこちら
透かし剪定を、実際の作業動画でご紹介しています。
枝の選び方、切る位置、全体の仕上がりの雰囲気など、写真では伝わりにくい細かな部分も動画でチェックできます。
どれを選ぶ?剪定の使い分け早見表
剪定の種類 | 主な目的 | 樹木への影響 | よく使う場面 |
---|---|---|---|
強剪定 | 大きく形を変える | 大(再生に体力が必要) | 高さを落とす/込みすぎた老木の更新 |
軽剪定 | 形を整える | 小 | 年2回のメンテナンス/庭の見栄え |
透かし剪定 | 光と風を通す | 中〜小 | 病害虫予防/落葉樹の空間づくり |
まとめ|剪定は「切る作業」ではなく「整える作業」
剪定は、ただ枝を落とす作業ではありません。
木の成長を支える「見守り」と「整え」の作業です。
木と向き合いながら、“切ることで育てる”という考えを持つことで、庭はもっと魅力的になります。
📝 末尾の注記(発信姿勢として)
※この記事では、奈良県で60年以上にわたり庭づくりに携わってきた経験をもとに、造園の現場で実際に行っている剪定方法や考え方をわかりやすくまとめています。
間違いや誤解のないよう、丁寧な情報発信を心がけております。
枝を抜いたあと、「枝と枝の空間ができる限り均一か?」が一つの目安になります。
透かし剪定は、やりすぎると見た目が寂しくなるので、“抜きすぎず残しすぎず”のさじ加減がポイントです。